Rakim、ラップの書き方を変えた天才

📷 Rakim / 撮影: Flowizm / CC BY 2.0
ラップが上手いって、どういうことでしょう。声が大きい、早口で言える、リズムに乗っている。いろいろな答えがありますが、「落ち着いた声で、複雑な言葉を滑らかにつなぐ」という新しい基準を作ったのが、Rakim(ラキム)です。
多くのラッパーが「ラップの神様のひとり」として名前を挙げる存在。今回は、彼の何がそんなにすごいのかを、できるだけやさしく説明します。
ロングアイランドの青年
Rakimの本名は、ウィリアム・マイケル・グリフィン・ジュニア。1968年に生まれ、ニューヨーク州ロングアイランドのワイアンダンチで育ちました。音楽一家に育ち、小さいころから楽器にも親しんでいたと言われています。
落ち着いた話し方と、考え抜かれた言葉選びから、ファンの間では「ラップの教科書のような人」と語られることもあります。派手さで勝負するのではなく、技の精度で信頼される。そんな職人気質のかっこよさが、彼にはあります。
10代でラップに夢中になり、やがてDJのEric B.(エリック・B)と出会います。2人は「Eric B. & Rakim(エリック・B・アンド・ラキム)」として活動を始めました。1986年に出した「Eric B. Is President」で、まず注目を集めます。
1987年にはアルバム「Paid in Full」を発表。表題曲は、ヒップホップを代表する名曲のひとつとして知られ、後世のリミックスも話題になりました。この一枚が、Rakimの名前をヒップホップの歴史に深く刻みます。
内韻、そして落ち着いた声
Rakimの最大の発明といわれるのが、言葉の中に韻を隠すスタイルです。それまでのラップは、行の終わりで韻を踏むのが基本でした。ところがRakimは、行の途中にも韻を入れて、言葉をなめらかに重ねていきました。これを「内韻」と呼びます。
たとえば、日本語で「ことばが とけて みちが ひらける」のように、行の途中の音がそろっていると、心地よく聞こえますよね。そんな感覚を、英語でとても細かく緻密にやったと思ってください。
もうひとつの特徴が、声の出し方です。当時のラップは、勢いよく叫ぶようなスタイルが多くありました。ところがRakimは、低くて落ち着いた声で、まるで語りかけるように話します。大声を出さなくても、言葉の力だけで人を引きつけられる。その発見は、後のラッパーたちに大きな影響を与えました。
また、リズムの取り方も自由でした。ビートのリズムにきっちり合わせるだけでなく、少しずらしたり、流れに乗ったりすることで、言葉が音楽のように流れ出します。ラップが「ことばの芸術」と呼ばれるようになった理由のひとつです。
名盤が並ぶ時代
1988年の「Follow the Leader」でも、2人は高い評価を得ました。当時は、ヒップホップの黄金期とも呼ばれる時期です。さまざまなアーティストが新しい表現に挑戦していましたが、その中でもRakimの存在感は際立っていました。
Eric B.のDJ、つまりサンプリングや選曲のセンスも大事な要素でした。ファンクの力強いドラムの上にRakimの低い声が乗ると、不思議な緊張感が生まれます。DJとラッパー、二人が互いを引き立て合うバランスが、このデュオの魅力でした。
黄金期のヒップホップは、ひとつひとつの作品が個性的で、聴き比べるだけでも楽しい時代です。Rakimの作品を入り口に、同じ時期のほかのアーティストへ聴く範囲を広げていくと、新しいお気に入りが見つかるかもしれません。
「I Know You Got Soul」「Microphone Fiend」のような曲は、今でもヒップホップのファンの間で語り継がれています。クラブでも、渋いDJがここぞというタイミングでかける曲として、愛されています。
その後、2人は活動の形を変え、Rakimはソロとしても作品を発表していきます。時間をおいて新しい作品を出したり、他のアーティストと共演したりと、ゆったりと自分のペースで活動を続けてきました。
ラップを聴くとき、私たちはつい「速さ」や「迫力」に目がいきがちです。ところがRakimは、それとは別の物差しを見せてくれました。ゆっくり話すように、それでいて一言ずつに意味と響きを込める。聴き終えたあとに、ふと余韻が残る感覚があります。
クラブでも、盛り上がる曲だけでなく、少し落ち着いた曲がかかる時間帯があります。そんなとき、Rakimのような渋いラップが流れると、フロアの空気が引き締まって、また別の楽しみ方ができます。
Rakimの影響は、あとに続くラッパーたちの口から何度も語られています。複雑な韻の組み合わせ、落ち着いた声、物語を紡ぐような言葉選び。今のヒップホップの技術には、Rakimが切り開いた道の上にあるものがたくさんあります。
画像は2008年、ニューヨークのフェスでのステージです。派手な動きがなくても、マイクを持って静かに立つだけで、会場の空気が引き締まります。ラップの実力は、声の大きさでも派手さでもなく、言葉そのものの力なのだと感じさせてくれます。
もし日本語ラップを聴いていて「韻がきれいだな」と思う曲があれば、その源流のひとつにRakimの存在があるかもしれません。国や言葉が違っても、韻の気持ちよさは通じるものがあります。
ラップに慣れていない人は、最初は英語のスピードに圧倒されるかもしれません。そんなときは、無理に意味を追わず、声のトーンやリズムだけを楽しんでみてください。Rakimの声は、とても聴きやすくて、気持ちが落ち着きます。
Rakimの曲は、一度聴いてすぐにわかる派手さはないかもしれません。けれど、何度も聴くたびに新しい発見があります。ヒップホップを長く楽しみたい人こそ、ぜひ味わってほしい名人芸です。
ラップの「うまさ」は、速さや大きさだけでは決まりません。Rakimを聴くと、その奥深さがよくわかります。クラブでヒップホップを楽しむ目線が、きっと少し広がるはずです。
まとめ
Rakimは、ラップの書き方と届け方を大きく変えた人です。内韻による緻密な言葉の組み立て、落ち着いた声、自由なリズム。そのすべてが、今のラップの基準を作りました。
クラブで派手に盛り上がる曲も楽しいですが、たまには静かに言葉の流れを味わう時間もいいものです。イヤホンで、一曲じっくり聴いてみてください。
一曲を聴き終えるころには、きっとRakimの声がクセになっているはずです。ぜひ試してみてください。
まずはこの曲から
- Eric B. & Rakim「Paid in Full」:ヒップホップ史に残る代表曲
- Eric B. & Rakim「I Know You Got Soul」:ファンクの勢いと言葉の流れを楽しめる、定番曲
- Eric B. & Rakim「Eric B. Is President」:デビュー期の鮮烈な一曲
- Eric B. & Rakim「Microphone Fiend」:言葉のうまさをじっくり味わえる一曲